パンツは履いておけ。

この世は乱世

不倫希望の男性と、スカイツリーの夜景を見に行って、添い寝してきた話。

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 以前出会い系サイトを介して知り合った不倫希望の男性と仲良くなったので、スカイツリーの夜景を見に行き、浅草で一泊することになった。

……と、初っ端からツッコミどころ満載の一文であるため、まずこのシチュエーションを理解していらっしゃらない方は是非こちらの記事を読んでほしい。

 

virgo.hatenadiary.com

 

 

 まあ、要約すると、不倫したいという男性を出会い系サイトで釣り上げて、不倫そのものをするわけではなく、彼の裏にあった感情や家族関係を聞かせてもらったのだ。

 

 その延長のような形で、先日、こちらへ出張でやって来たその男性とスカイツリー近辺の観光に行くことになった。一泊で。

 

 自分でもさすがに夫への後ろめたさがなかったわけではないが、抑えきれぬ好奇心にノックアウトされた。この人がどんな想いを抱えて生きているのか、知りたくてしょうがなかった。

 

 結論から申し上げると、いかがわしい関係には一切なっていない。「一泊する時点でそもそもいかがわしいだろ!」とお怒りになる潔癖クリーンな方はきっとこの文章読んでもくそつまんねーと思うので、ブラウザバックして頂いて結構です。さよなら。

 私と同じように、大人な社会科見学を目の前にして、脳内からどぴゅどぴゅ分泌されるアドレナリンが抑えきれない方だけに、この文章を読んでいただきたい。

 

 

◇◇◇

 

 

 15時に上野駅で待ち合わせた。仕事を早く切り上げて終わらせてきた男性は、やぁと言った。一泊のわりにはやけに身軽で、ウエストポーチだけだった。

 

「実はもう先にホテルチェックインしてきたんだよね。先に浅草行こうか」

 

 なるほど、気が早い。そのまま地下鉄で浅草へ行き、ホテルに荷物を置きに行った。なかなか高そうな観光ホテルで、アメニティもばっちり。ロビーですれ違うのは中国人観光客ばかりだった。

 

 荷物を置いて、私たちはタクシーでスカイツリーへ向かった。すみだ水族館でライトアップされたクラゲを眺めた後、お土産ショップのチンアナゴがやけに狙いすましているかのように男性のそれだったので、二人で下品に笑った。

 日が暮れ始めてから、やっとスカイツリーの展望デッキへ。さらに上の展望回路ではちょうどドラゴンボールとのコラボがやっていたので、ひとしきりDBトークで盛り上がった。フリーザ様のカルタめっちゃほしかった。

 そして、またタクシーで浅草に帰り、料亭で鍋をつつく。やけに面倒見のいい女将で、腹がはちきれるほど食べさせられた。

 

 そして、ホテルに戻ると、ぼんやりとした照明があいまって、微妙な雰囲気になった。一言でいうなら、ここからセックスに持ち込まれてもおかしくない感じの、アレ。

 だが、男性はその気まずさを察してくれたのか、いやらしさのない笑顔で言ってくれた。

 

「何もしないから、大丈夫」

 

 何度か会って、それなりの信頼関係を構築していたので、信用することにした。まあ、もしそういう方向に持って行かれたとしても、私が生理中だったので、どうあがいてもセックスはできない。最も、私もわざと生理の時にこの日程を当てたのだけれども。

 

 お互い別々に風呂に入った後、うるさいぐらい窓全面に見えるスカイツリーを眺めながら、部屋のバーカウンターのようなスペースで飲み物を飲みつつ、話をした。

 

「俺も人生折り返しか」

「折り返しなんて、まだ早いですよ」

  

「昔はさ、自分を磨けば磨くほど輝いて、素敵な人間になれると思ってた。実際、学生の頃はそうだった。大学は一応難関ってよばれるような大学だったけど、勉強だけの人間って思われたくなくて、何人かの女性と付き合って、バイトもして、インターンとかさ。実際、その頃が一番人生上手くいってたし、自分最高って思ってた。

——でも、今はダメなんだよね。磨いても磨いても、若い頃みたいに輝かない。むしろ、磨けば磨くほど、自分がすり減っていくだけなんだよ。」

 

 磨けば磨くほど、自分がすり減っていく、か。

 

「じゃあ、なんで不倫なんてしようと思ったんですか。磨いてもすり減っていくだけってわかってるのに、どうしてそんなリスキーなことを。」

 

うーん、と男性はしばし考えた後、私の目を見据えて言った。

 

「自分がぴかぴかに磨かれている時——恋愛でも勉強でも仕事でも、主体的になって何かに挑戦しているときって、自分がこの世界の主役って感じするじゃん。その感じをもう一度味わいたかったんだよ。ダメ元でも、削れてしまってもいいからさ」

 

ふむ、と私は聞き入った。

 

「人生はよくRPGに例えられるけど、それって本当に秀逸だよね。

結婚して子供をもつ前までは、自分が主人公でいられる。だけど、一回子どもを持っちゃったら、俺たち大人は、主人公から格下げにならないといけない。なぜなら、子どもがそのパーティの主役になるから。」

 

 「そうですね、子どもがいたら、それ中心の家庭になりますもんね」

 

「でさ、いつまでも主人公の座を子どもに譲らない親は、世間から非難されちゃうわけ。自分勝手で親の資格がないって。親の資格って何なんだよ」

 

「——で、悪あがきをしたかったんですね。お子さんが生まれる前に」

 

男性は、気恥ずかしそうに頷いた。彼は、来月、娘が生まれる。

 

「ねえ、君はどう思う。いつまでも自分が主人公でいたいって願うのは、そんなに悪いことだと思う?」

 

 私は、母親を思い出した。

私の母は、私たち子どもがいるから、自分はアル中DVの夫から逃げられないといった。そして、ヒステリーを起こし、私たち子どもに当たった。

彼女は、主人公の座を私たち3人の子どもに譲ったばかりに、自分の好きな人生が歩めなかったと、未だに恨み言のように言っている。

 

成人した今でも、私の本心は「だったら、産まなきゃよかったのに。無責任に、愛してもいない人間とセックスなんかして、子どもなんか作らないでよ。」それに尽きる。

 

 私は、溢れ上がる感情をこらえきれなくなって、肩を震わせて言った。

 

「自分が主人公でいたいなら、子どもなんか作っちゃダメだったんですよ。そういう親の元に生まれた子どもがどうなるか知ってます? 私みたいな、傷だらけの、自尊心の低い子どもになるんです。」

 

 その時、薄暗い照明の中で、ぼんやりと、男性が傷ついたような驚いたような顔をしていることに気が付いた。

 しまった、今夜一宿を共にする関係とはいえ、赤の他人に感情的になってしまった。私は即座に謝ったが、男性は「その通りだよ」と、何か諦めたような表情をしていた。

 私が自分の生い立ちを話し始めると、男性は黙って聞いていた。ずっと、シャンパングラスの気泡が上に上がっていくのを見つめていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 深夜2時を回った頃、ようやく床につくことにした。よりによってダブルベッドだったので、私は他人の家の布団に入るように、おずおずと掛け布団をめくり、足を差し込んだ。やけに清潔なホテルのシーツは、無機質で冷やっこかった。

 

 男性は、ベッドの中央に身体を横たえたので、私はベッドの淵ギリギリまで追いやられていた。

 処女かよ、と男性に笑われたので、まあそれに近いもんです、と口答えをした。

 

「取って食いはしないから、隣に来てよ」

と、自身の横をぽんぽんと叩く男性。

 

 前回聞いた彼の事情を思い出し、少し同情の気持ちが沸いてしまい、私は素直に男性の真横へ寝転んだ。

 

 

「俺、娘の名前、君の名前にするわ」

「はあ!?」

 

こいつ正気か。出会い系サイトで知り合った得体の知れないオンナの名前を娘につけるとか、イカれてやがる。しかも、サイト用の偽名だし。

 

「いやさ、実は昔、俺の名前も、生まれる前に親戚みんなで考えて決まってたらしいんだけど、役所に届け出しに行く途中で親父が閃いてさ。その場でつけたヤツが俺の名前になっちゃったんだよね。だから、そういう思いつきとか偶然ってのも大事にしたいなって」

「将来、娘に名前の由来聞かれて答えられなくても知りませんよ」

「大丈夫、上手く誤魔化すって。『お前が生まれる前に出会った、素敵な女の子の名前をつけたんだよ~』って」

 「うわキモい」

 

ははは、と笑い飛ばして、気が付いたら私たちは、眠りに落ちていた。

翌朝、ホテルの朝食サービスの時間が終わるぎりぎりに起きぬけて、モーニングを頂き、浅草をぶらつき、昼過ぎに上野で解散した。

 

 

 

 自宅に帰ってから、夫への罪悪感のあまり、私は手の込んだ料理を作った。身体の関係こそなかったが、夫に内緒で他の男性と一泊してしまったことは、さすがに自分の良心を蝕んだ。

 そして、私が手の込んだ料理を作る時は、何かをしでかした時だということを熟知している夫は、2時間かけて作った私のお手製罪滅ぼしディナーをぺろりと平らげて、それ以上何も詮索してこなかった。

 

 

自分の人生の中でも指折りの不思議な体験だった。

 

 

 

この話はフィクションで、実在の人物・団体とは関係ありません。

 

なんてね。

 

 

 

 

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