パンツは履いておけ。

いろいろはみだしてる人の人生備忘録

男のちんぽは何のためにあるのか

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 不倫を個人の問題としてではなく、社会問題として考察した坂爪氏の『はじめての不倫学』を読んだのち、実際に自分でもそのフィールドを踏みたく、出会い系サイトに登録した。

 

 

はじめての不倫学 「社会問題」として考える (光文社新書)

はじめての不倫学 「社会問題」として考える (光文社新書)

 

  

 念のため言っておくが、不倫をすることが目的ではない。不倫をしている人・不倫をしたことのある人・あるいは不倫をしたいと思っている人に接見してその状況を深く知りたいと思ったのだ。

 ネット上に数多く存在する"潔癖"なユーザーからは「出会い系サイトだなんて危ない!」「夫がいる人がそんなことしちゃだめよ!!」「モラルとかそういうのないの!?」とぶっ叩かれそうだが、そういった発言はお節介でナンセンスなので無視することにする。だって、自己責任でやってるんだし。

(そーゆー奴に限って、人には言えない後ろ暗いものがあったりするもんなんだよなぁ~)

 

 

 

 さて、そうして出会った男性は30代半ば。彼は「不倫してみたい」人間であった。

 とある超一流の国立大学を院まで卒業したのち、地元の企業に就職。同じ大学出身の妻がいて、彼女は現在妊娠中であるという。

 1回目に会った時、そのようなプロフィールを明かしてくれた。左手の薬指に、ぎらりと指輪が光っていた。そして、それが視界に入った時の彼の暗澹たる表情が、某RPGの「呪いの指輪」を思い出させた。

 

 この時に私は、自分の身分も明かした。もちろん、会うのは初回であるので、身バレしない程度に、大学でなにこれ、こういう勉強をしていて、不倫そのものが目的ではないと伝えた。

 

 この時点で気に食わなければ帰っていいと伝えたのだが、予想に反して男性は笑った。

「うわ、めっちゃ面白いやんけ」

ハイ・エデュケーションの方は、話が早くて助かる。

その日はとりあえず、それで別れた。

 

 

◇◇◇

 

 

 2週間後に、2回目のインタビューをした。

上野のバーをハシゴした後、最終的にファミレスで締めをしたぐらいで、だいぶ打ち解けて仕事やら家庭やらの愚痴をこぼしてくれるようになった。

 

「(社会から)結婚するのが当たり前だと思わされて過ごしてきたから、とりあえず大学時代に付き合っていた彼女と結婚したんだけど…、実際に一緒に暮らすと性格が全然合わないことに気づいたんだ。それでも、初めはお互いの足りない部分を補完できるとかなんとか、自分の気持ちを誤魔化しながら、だましだましの結婚生活を送って来たよ」

 

まるでうちの親の20数年前を見ているようだった。

このケースは二人ともハイ・エデュケーションの方々であるので、私の両親とはちょっと事情が異なるが、それでも社会の見えない何かから結婚を急かされて、不本意な婚姻をしてしまったところが、そっくりだ。

 

「でも、子どもが出来たって妻に知らされた時に、「ああ、もう逃げられないところまで来たんだな」って思った。これから自分が父親になるなんて想像したくもないけど、日に日に妻のお腹は膨らんでいくし…。そういったプレッシャーというか、焦りから解放されたくて、カワイイ不倫相手でも見つけて、現実逃避したかった」

 

 それで、私の落とした釣り針に見事に引っかかったというわけか。

 

「妻は気が強くて、彼女の父も有名な研究者なんだ。多分、君も知ってる有名な学者さんだよ」

「え、マジですか」

 

彼は、ぼそぼそっと、私にその研究者の名前をつぶやいた。

私はそれを聞いた瞬間に、ぶったまげて椅子から転げ落ちそうになった。

 

「ええ~~…!」

「だから尚更、家の中に居場所がないような感じがしてさ」

 

 確かに、有名な研究者の義父・そして気が強い妻という状況だったら、家庭内でも借りてきた猫のようになる他あるまい。

 

 

「俺、本当は子供も欲しくなかったんだよね。だけど、妻の家の希望で…。排卵予定日だかなんだか知らないけど、その日にだけベッドに誘われて、まるで種馬の気分だったよ」

 

 彼は、もうとっくに空になっていたジョッキを何度も煽っていた。これ以上飲ませるとべろんべろんになって、帰りが大変そうなので、私は自分が口をつけていなかった、水の入ったコップを渡した。

 

「俺のちんぽって、なんのためにあったんだろ…」

 

 男性の真っ赤な顔についている、二つの瞳がうるんでいたのは、酒だけのせいではなかったのかもしれない。

 

 

◇◇◇

 

 

 不本意な結婚というのは、おとぎ話や昔話ではない。現代日本社会に有り触れている、紛れもない真実なのだ。

 こうした家庭に生まれた子供がどのようになるかは、だいたいの人がお察し頂ける通りだと思う。

 

 「見えない何か」に圧されて結婚した男性——それも、社会的にはとても地位の高い人が「俺のちんぽって何のためにあったんだろう」と発言してしまう境遇におかれている状況に、少し心が痛んだ。

 

 坂爪氏の不倫研究は、大雑把に言うと「子どもや若者世代の貧困、果てには高齢者の孤独死といった社会問題のおおよそが不倫が原因」というような切り口であったが、私は「人が不倫に至るまでの社会背景の研究」がもう少し、詳細に、丁寧に必要なのではないかと思った。そして、それをジェンダー的に解剖していくのが、生意気にもジェンダーを専攻する人間の役割なのではないかと考える。

 (え、どうしよう、卒論、これでいくか?) 

 

 どれだけAIが発展しても、人間が生きている限り、性(ジェンダー・セックス・セクシュアリティ)については考えなければいけない問題だし、そこに終わりはない。

 まだまだ、考察の余地はありそうだ。 

 

 

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