パンツは履いておけ。

いろいろはみだしてる人の人生備忘録

【ボツ小説供養】『はじける果実』

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昔書いてボツになった小説を供養しておきます。

 

高校2年生の男子が、同じクラスの同性の親友(彼女持ち)に横恋慕して、略奪をはかる一夏の話。

レモンのようにさっぱり青春と見せかけて、SNSを舞台に超泥沼劇になるのですが、なんだかなあと思ったので書き出しだけ掲載しときます。

反響があったらちゃんと書き直して何かしらの形にするかもしれません。

 

 

 

 

 あざみの花も一盛りという言葉がある。人間、特に女性はどんなに華がない人でも、年ごろを迎えればそれなりに色気がでるという意味らしい。

 僕は男だけれども、まさにこの言葉を体現している人間だろう。至って平均的な顔立ちで、サッカーがうまいとか勉強ができるとか目立つような特技があるわけでもなく、地味で、小中学校と女の子とは縁遠い生活を送っていた。特に中学校三年間は、母と姉を除けば話した女性は皆無に等しい。

 それが高校に上がってからはどうだろうか、僕にもそれなりの色気が出ていたようで、クラスの中で女子たちにイケメンだと囁かれていたらしく、ついこの間、隣のクラスの女子に告白された。

 でも、愛の告白と共にわけもわからず押し付けられたラブレターはどうにも現実味を帯びていなかった。ピンクのハートがあしらってある便箋も僕の目にはセピア色に映り、五年後の僕と彼女を想像してみようにも思い浮かばなかったので、その女の子の告白を断った。

 「ごめんムリ」と僕が言った途端、女の子は堰を切ったようにわんわんと泣き始めた。名前もわからないその女の子、確か苗字は園田だと後で知ったのだが、とにかくひどい号泣っぷりだった。すぐさま下駄箱の陰から様子を伺っていた、園田さんの取り巻きの女子たちが飛び出してきた。そして彼女らは園田さんを赤子のように宥め、僕を一瞥して言ったのだ、「サイテー男」って。

 そんなこと言われたって、僕はどうしようもない。好きかどうかも分からないうえに、名前も知らないような女の子と付き合ったって上手くいくはずがない。でも恋愛に夢を見(すぎ)ている女子たちはそうは思っていないようで、僕を女の敵だと罵って、結局僕はしばらく学年じゅうの女子から無視をされる羽目になった。

 そんなここ一か月の出来事を回想し、思わず目の前にいた駿に、僕が悪いんだろうかとぼやく。


「男と女の違いってヤツだよ」

 

 駿はどこか分かったような口ぶりで、提出期限の切れた数学のプリント裏面の落書きを消している。

 駿は高校に入ってからの友達だったから、中学以前のことは知らないのだけれど、どうも遊び人のようだった。確かに見た目は垢ぬけていて、校則で禁止されているからピアスこそしていないものの、茶色に染めパーマを当てた髪はやっぱりチャラい男のそれだった。噂では中学時代に五人彼女がいたらしい。

 今は杏子ちゃんというクラスの女子と付き合っている。駿は僕とは違って色気のある人間だった。

 

「『女の子に告白させといて、振るなんてサイテー!』とか罵られても僕のせいじゃないじゃん。だって知らない子だったんだし。僕は知らない子となんて付き合えないね」


 厭味ったらしく女の声と素振りを真似して身体をくねくねさせてみるけれど、駿は笑ってはくれなかった。

 それどころか僕には目もくれず、ずっとプリントとにらめっこしている。少しムキになって、ねぇと顔を覗き込んで同意を求めるが、やはり駿は面倒くさそうにして言った。


「だから、それが男と女の違いなんだって。女はたとえ相手が知らない奴でも一目ぼれしたら付き合いたいと思って必死にリサーチするけど、男はなかなか、知らない子に好かれてると知ると嬉しい反面ちょっと怖いって思うんだって」

「別に僕は嬉しかなかったけど」

「またまたぁ、女子に告白され嬉しくないヤツがいるか」

「本当に嬉しくないから」

 

 僕は口をとがらせて、机に突っ伏す。半袖のワイシャツの汗臭さに少し鼻についた。今日あたりは制服を洗濯しないといけないらしい。窓からは爽やかな夏の風が吹き込んできて、僕の額に浮かんだ汗を急速に冷やしていく。体温が一気に下がり、鼻の奥がむずむずとくしゃみの準備を始めた。僕は慌ててポケットからタオルハンカチを取り出し、口元を抑えながらくしゅっと模範解答のくしゃみを一発かました。


「変なの、くしゃみなんてフツウにすりゃあいいだろ」
「俺、神経質だから」


 ふーんと駿は流すような返事をして、またプリントを見つめた。僕は安堵した。神経質なんて嘘。本当はトイレの後に手を洗わなくたってへっちゃら。それぐらい図太いのに、何故か最近は駿の前でくしゃみをするのが恥ずかしくなっていた。

 だからタオルハンカチまで出して、わざわざ俯くようにしてくしゃみをしている。もっといえば、くしゃみだけじゃない。一年のときは弁当を食べたあとなんかゲップしても平気で、駿もしていたからお互いカエルの合唱みたいにしていた。

 けど、最近はそれができない。他の奴の前なら出来る。女子の前でも、汚いとかなんだとか冷ややかな目で見られるけれど抵抗はない。なのに駿の凛々しい横顔を見ると、顔から火が出るように熱くなる。早くも夏の熱に浮かされて、僕はおかしくなってしまったのだろうか。


 七月のカレンダーは黒板の横でひらひらと風に煽られている。もうすぐ夏休みが来る。来年、高三になればきっと遊んでいる暇なんてなさそうだから、実質今年が高校生活最後の夏休みだ。

 六月辺りから今年の夏は何をしようかと考えていたのだが、告白騒動もあって考える間もなく夏になってしまった。

 先ほど渡された通知表はどの教科も3と4の数字しか刻まれておらず、一緒に返却された期末テストの成績とともにエナメルカバンの底のほうで安らかに眠っている。

何もかもが中途半端な高二の夏が、今始まろうとしていた。


「杏子ちゃんとどこか出掛けるの」


 シャーペンを右手でもてあそびながら僕は聞く。手のひらの汗がじんわりと、僕に何かを告げている。杏子ちゃんは何処にでもいるような女子高生だった。

 同じクラスで部活は家庭科部。料理とか裁縫とかこまごましたものが趣味で、運動は苦手。成績も僕と同じ真ん中ぐらい。目立ったところはないが、笑うと頬に出来るえくぼが印象的な愛らしい女の子。高一の終わりごろ、彼女が駿に告白して交際が始まったらしい。


「泊まりで熱海に行く。盆過ぎだけどさ」


 駿のプリントの裏の落書きはいつの間にか綺麗に抹消されていた。それでも力づくで消しゴムを走らせた部分が、くしゃりとシワになって寄れていた。今、僕もそんな気持ちをしている。何でか分からないけど、どうしてか、面白くない気分なんだ。


「泊まりで熱海って……何泊するの」

「二泊だよ」

「金どうすんの。結構かかるんじゃない」

 駿は僕の無粋な一言に眉をぴくりと動かした。

「颯太お前、うちのお袋みたいなこと言うよなあ。盆までバイトするんだよ。ちょうど知り合いが働いてるコンビニでさ、短期でやってくれないかって誘われたんだ」

「へぇ、そう。がんばれよ」

 僕の右手は力なく、ひらひらと駿に手を振った。なんだか一気に駿が遠くに行ってしまったように思える。バイトとか彼女と旅行とか。俺も駿と一緒にバイトしたい。駿と旅行に行きたい。駿と一緒に夏を過ごしたいって思うのに。

「あれ?」

 ちょっと待て、どうやらおかしいぞ。僕は、模範的リア充の生活を送ろうとしている駿に嫉妬しているんじゃない。駿と一緒に居られないことにヤキモチをやいて拗ねていて、これじゃあまるで片想いの女子みたいだ。駿はアホ面のまま放心している僕をじっと見つめた。「数列の問題わかんないんだけど教えて」と口が動いている。

 でも僕は、その文章を脳内で処理しきれないでいる。心臓の鼓動がいきなり早まって、うるさいほどに僕の身体中に響いてゆく。駿の耳元にかかった柔らかそうな茶髪にときめいて、僕は初めて、手に滲んだ汗が夏のせいじゃないことに気が付いた。

 

 

 

 

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