パンツは履いておけ。

いろいろはみだしてる人の人生備忘録

Happy Re BirthDay

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2X歳の誕生日、父親という存在に初めて向き合った。

私の父親はアル中の上に家族への暴力が絶えなかった人間で、しまいには酒瓶を抱えて何処かに居なくなってしまったような人だった。

 

そして、誕生日に再会した。

 

あれだけ苦しめられた存在で、一時は殺してやろうかぐらいにも思っていたが、時の流れというのは恐ろしいもので、人の怒りまで沈静化させる効果があるらしい。

不思議なことに、穏やかに食事をすることができたのだ。

 

 

◇◇◇

 

 

夫も、父親に難を抱えた経験のある人間だ。

彼の実の父はひどい酒豪だったらしく、よそに女を作って蒸発したらしい。

そんな凄惨な経験をしたくせに、小さかったから全然記憶がないんだよね~、とケラケラ笑っている、夫。

「嫌なことは忘れる」という素晴らしい思考回路を持った人間の成せる業である。

 

だから、私が今義父として関わっている夫の父は、夫の実父ではない。

 

私はこの話を夫から初めて聞いた17歳当時、少し驚いた。まだ付き合う前だった。

父親に難を抱えた家庭というのが、こんなにすぐ近くに転がっているものだとは思わなかったからだ。

そして、その癖あっけらかんと生きている彼が羨ましくて、少し嫉妬して、恋をしたのだ。たぶん。

 

しかし、私は実父がまともな人間じゃなかったことにコンプレックスを感じていたんじゃない。

その酒豪の血が流れていることに何かしら思うところがあったのだ。

自分も酒を飲んだら、色々なものを破壊しかねないという強迫観念に晒されて生きてきた。

 

また、幼少期から、怒って少しでも声を張り上げたりすると、母親に「お父さんそっくりね、あなた」と言われて育ってきた。

そんなお父さんと、過ちだろうが結婚して、セックスして、所帯持ったのは自分の癖に。

こんなことを少しでもボヤいてみれば戦争の合図。

瞼の裏に星が瞬くほど引っぱたかれて、都内の狭い家で母親と殴り合った思い出が私の全身を駆け巡る。

 

◇◇◇

 

 

そして、私の2X歳の誕生日。

ウチではろくでなしの代名詞だった「お父さん」は、ろくでなしじゃなくなっていた。

酒もやめて、今は亡き祖父が建てたオンボロの建設会社を再興させていた。

地域の子どもたちのために、スポーツ興行のボランティアもやっていて、自身のアル中経験を大学で講演するという半ばしくじり先生的なことをやっていた。

(この辺のメンタルのタフさは、私もどうやら受け継いでいるらしい)

 

父は、自分の罪を認めて、きちんと前に歩き出していたのだ。

 

小奇麗な和食屋で、「これ少ないけど」と1万円分の図書カードを誕生日祝いとして渡してくれた。

 

「何を渡せばいいのか分かんなくてさ、今学生やってるって聞いたから、こんなんがいいかなと思って」

 

恥ずかしそうに、ポリポリと頭を掻いたその手は、昔、乳飲み子を抱えた母親の頭を畳のヘリに叩きつけた手だ。

 

愛憎入り混じる、その自家撞着が苦しい。

 

でも、自身の罪を認めて歩き出している人に、過去の罪を咎めるようなことをしては、きっとそれが枷になってしまう。

だから、私は父親の罪を許さねばならないのだ。

その信念の下、私は、父親に過去のことを蒸し返すようなことをせずに、面会を終えることが出来た。

 

帰ってから、風呂の中で、夫にその日の心情を吐露した。

身体を洗っていた夫は、湯船に浸かってぼやく私の方を見ず、鏡の中の自分を見つめながら一生懸命左腕だけを洗っていた。

 

「許せないなら、許せないことごと忘れるしかないよね」

 

その言葉が、風呂の中で反響してやけに印象的だった。

そうだ、許す必要はないのだ。

許せない出来事そのものを記憶から抹消して、新しく関係を構築していくという選択肢もありなのだ。

 

立ち直ろうとしている相手の罪を蒸し返して、傷口を抉ることはしてはならない。

生まれ変わろうとしている誰かへの手助けとして、まずはこちらも過去のことを許す――許せないなら、忘れてやらねばならないのだ。

 

「私、許せないことが多すぎて、全部忘れたら記憶喪失になりそうなんだけど」

「ええねん、それぐらいでちょうどええねん」 

 

 

お風呂上りに、夫とココアを飲んだ。あたたかい気持ちになった。

1万円の図書カードは、まだ机の引き出しに眠っている。

 

今年は例年より、少し違う誕生日になった。