パンツは履いておけ。

いろいろはみだしてる人の人生備忘録

チャットレディーデビューをした話

チャットレディー。

その名を聞いたことがある人は多いと思う。パソコンが普及してからというもの、電子空間において疑似キャバクラを再現することが可能となった。

2000年代初期に綿矢りさが書いた小説『インストール』では、受験戦争からドロップアウトした主人公の女子高生と、その近所に住むパソコンに詳しい男子小学生が、既婚チャットレディの代行をする様子が如実に描かれていた。

主人公と同じく、今まさに就活戦線やキャンパス・ライフ・サバイバルから零れ落ちた二十代前半ろくでなし女の私は、久々にこの小説の存在を思い出し、本棚で埃を被っていたそれを読み漁った。

そして思った。

 

チャットレディ、やってみようじゃんか。

 

 

■チャットレディを始めるまで


まず、ネット上で現在のチャットレディ状況について調べてみたところ、小説『インストール』に出てきたような、テキストだけでのチャットレディというのは、もうほぼ絶滅状態であるらしい。そりゃ、冷静に考えれば、webカメラスマホという文明の利器が発明された現代だもの。チャットレディだって、より臨場感を得るために、フェイス・トゥ・フェイスになるだろう。

とりあえず、大手のチャットレディ紹介所を検索し、仮登録した。しかし、問題は本登録である。チャットレディは仕事の性質上、当然ではあるが年齢制限が儲設けられている。故に、仮登録から本登録のためには身分証を撮った写真と、身分証+それを持った自分を撮った写真を、先方に送る必要がある。仮登録のままでは仕事を紹介してもらえないのだ。

普段自撮りなどしない私は、この時自分のブス度を改めて思い知る羽目となった。たるんだ頬、化粧で誤魔化しきれないシミ、デカい鼻。こんなんで本当に客などつくのだろうか……という一抹の不安をよそに、私の本登録は完了した。

 

チャットレディ紹介所は、各チャットサイトを紹介してくれるエージェントのようなものである。紹介所の本登録完了後に、そこのサイトに出演女性(チャットレディ)としてログインするためのIDやパスワードが配布される。

 

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配属サイトは、アダルトとノンアダルトの希望によって決まる。いきなりアダルトをやる勇気はないので、ノンアダルトをお願いしたところ、Aというチャットサイトを紹介された。そして、その日中に早速仕事を始めることとなった。

とはいっても、思い付きですぐに始めてしまったので、カメラとマイクの用意が出来ていなかった。私のフットワークの軽さに、必要なデバイスが完全に追い付いていない状況である。とりあえず、パソコンでのデビューは難しそうだったので、スマホというデバイスを選んだ。

しかし、ずっと片手で持ちながら会話するわけにもいかないので、随分昔にごろ寝しながらyoutubeを見るために買ったスマホ固定器具を、ベッドの脇に固定した。ただし非常に揺れるため、時折左手を添えなければならない。かくして、不安定なベッドの上で私のチャットレディー人生は幕を開けた。

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チャットレディー側から見る画面は、以下のような感じである。

 

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左上に配信中、となっているが、この状態はお客さんが付くまでの「待機時間」である。その下にある7人という数字は、待機中の自分を、今何人の人が見てくれているのかということである。この待機時間にニコニコするなり何かしらのサービスをするなりして、お客さんに気に入ってもらうことが重要である。そして、お客さんからチャットのお誘いをもらうのを待つ。このように、お客さんから誘いを貰って二人きりでチャットをすることを「ツーショット」と呼び、これに発生する報酬がチャットレディの主な収入となる。

そして、今自分がどう写っているかが、画面右側に大きく表示されるわけであるが、そこに写る私はまごうことなきブスであった。画力の関係でイラストにて表現できないのが非常に残念である。化粧や光の当て方で頑張ってみたものの、やればやるほど首から上だけ真っ白のカオナシブスになっていく。

苦肉の策として、デカい鼻を隠すためにぬいぐるみで顔の下半分を隠した。こうすればまあまあ美人に見えなくもないが、それを続けていたところ、チャットから切断された。なんだなんだと思いシステム状況を確認していたところ運営から「顔を隠すな」とのお達しが来た。ノンアダルトのチャットはエロを売らなくても良い分、基本的に顔を出さねばならないので、自分の顔のコンプレックスと向き合う勇気と、身バレしても何も失うものがないという豪胆さが必要である。

そして、以下ではチャットデビュー当日に出会った印象的なおじさんについて記述しておこうと思う。

 

 

■流星のように消えていくオッサン

試行錯誤していた私だが、今度こそ顔面をしっかり露出し、チャットを再開した直後、なんとお客がついた。

突然ツーショットに飛び込んで来た彼は、私が「こんにちは!」と言うまでもなく、いきなり「立って」「全身見せて」と矢継ぎ早にテキストで命令してきた。

ろくに挨拶もせずにいきなり謎の要求をしてくる一発目の客——まるでインターフォンなしに土足で上がり込んできて自宅を踏み荒らされているような感覚であった——に、戸惑う私。

しかし、男性の「立って」要求は止まらない。

 

ど、どんだけ飢えているんだ!!!!!

 


そして「全身」「見せて」というワードが運営の監視に引っかかる言葉であったことに気づいたのだろう。

そのため、途中から命令が「stand up」と英語になった。欧米か。

 

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だがそんなテクニックも虚しく、男は運営側からつまみ出されたようで、チャットは瞬く間に強制終了した。

この間わずか30秒ほどであったが、流星のように消えていった彼のことを私は忘れない。そして心のなかで、彼を密かに流星おじさんと命名した。

 

 

 

■自称エステサロン経営のおじさん


流星おじさんの出現から数分をおいて、意を決した私は再びチャットに舞い戻った。すると、今度は幾分かまともそうな男性が来てくれて、世間話を始めた。今度はテキストではなく、向こうもマイクを使って話しかけてくる。

「住んでいるのはどの辺?」「大学ではどんなことを勉強しているの?」といったことを訊かれたので、チャット開始前に適当に作り上げたチャットレディとしての自分のプロフィールを基に話を合わせた。

世間話には世間話で返すのが礼儀である。男性に「どんなお仕事をなさっているんですか~?」と聞いたが、これが終わりの始まりであった。

待ってましたとばかりに、「エステサロンの経営ですよ(デュフッ ろっ、六本木に本社があってネ…」と男性が語り始めた。

なんか、ヤバい匂いがしてきたぞ。

 

先程まで普通の喋り方をしていた男性は、なぜか吃音ぎみになりながら早口で私に尋問を始めた。以下、会話のダイジェストである。

 

男「生理はちゃんと来てますか?」

私「え?」

「だから、生理はちゃんと来てるかって聞いてるんです!!!」

私「は、はぁ…来てますけど…」(何でキレてんだこの人…)

男「あっ、あはぁ…それはいい♡…で、でも生理痛はありますよね?」

私「ええ、まあ……多少は。女性はみんなそうだと思

「それはマズイですよ!女性ホルモンが足りていない証拠です!!」

私(どんだけ食い気味なんだよ……)

男「では、性交渉はしたことがありますか?」

私「は、はぁ?」

「ですから、膣に陰茎を挿入したことはあるのですかと聞いているのです!!」

私(いやだから何でキレてんだよ…)「いや、なくはないですけど…」

男「なくはないというのはどういうことですか?あるか、ないか、どっちかでしょう?」

私(うわめんどくせぇ…)「……じゃあ、ありますあります」

男「今の問診からわかりました。あなたは今、オバサン化が進んでいる状況です。すなわち女性ホルモンがとても少ないんですよ」

私「はあ…」(ていうか勝手に問診されてたのかよ)

男「女性ホルモンが多く含まれている食べ物はザクロなんですけどね、このザクロを一週間で30個も食べないと、本来の年齢の女性ホルモンを生成することが不可能なんです!だからね、女性ホルモンを食べ物で補うことは実質不可能なんですよ」(超絶早口)

私「はぁ……そうなんですか」

男「ぼ、ボクが経営しているエステは、この女性ホルモンがたっぷり分泌されるマッサージを行ってます。いつもは予約でいっぱいなんですけど、今回は特別に、◎◎ちゃん(私)を無料で招待したいと、お、思います。このサイトで店を教えると、う、運営に見つかっちゃうので、別のところで教えます。つきましては、ら、LINEを交換しましょう。」

 

う、うわぁあああ~~~!!勧誘だ~~~!!!!


彼の言うとおりに連絡先を交換して、その女性ホルモンがたっぷり分泌されるというエステサロンなどに行けば、間違いなくハメられてポイ、下手すれば事件に巻き込まれるのがオチである。というかそもそも、そのエステサロン自体も実在するかは怪しい。

明らかにヤバそうな勧誘なので、回線をブツ切りしてやろうかとも思った。しかし、こうしている間にも、チャットの料金メーター(=私に入る報酬)はぐんぐん上がっているので、私には利益しかない。とりあえず遊んでやることにした。気分はまさに博打女郎である。

 

私「ちょっと迷っちゃいますーウーン…まずはお店のホームページとか見て、雰囲気見てみたいなぁ~」

男「実は店のホームページがないんですよ。ちょっと忙しくて作れてなくてね……」

私(うわ、ますます怪しいやん…)「え~、そうなんですか~?」

男「そ、そうなんですよ。場所も六本木だし、ウチは一見さんお断りだから、信頼できるお客さんから紹介された人だけ入店できる紹介制みたいな感じでだからホームページは…」

私「え、一見さんお断りなのに、どこの馬の骨とも分からない私みたいなのを特別に無料で招待してくれるんですか?」

男「あ、え、う、うん。こういうところで出会ったのも、運命だからさ……」

 

ふははは、楽しい~~~!!!


画面の向こうで汗だくだくになっているだろう男を想像し、私がほくそ笑んだ瞬間だった。

 

「たかしーー!!ちょっと来なさい!!!」
——中年女性の怒号が耳をつんざいた。それも、相手のマイクの向こうから。

男性はそれが私には聞こえていないと思ったのか「ご、ごめんね、ちょっと電話。一回マイクだけ切るから、ちょっと待ってて」と中座した。実に変わった着信音である。

三分ほどして男性は戻って来たが、この間も私の報酬は着実にあがっていた。

男「いやー、ごめんごめん」

私「いえいえ~大丈夫ですよ。本当にお忙しいんですね、エステ経営!」

そう私が満面の笑みで言うと、男性は「で、でしょ?本当でしょ?信じてくれました?」と取り繕った。

 

いや、信じねーよ!!!
だって全部聞こえてたもん。

 

この後、数十分ほど引き延ばしたところで、男性——もとい、たかしさんは勧誘を諦めてチャットを切った。

たかしさん、お仕事が見つかることを祈ってます。

 

 

以上が私のしょーもないチャットレディ体験である。

真面目にチャットレディをやっている方には土下座するしかない。

一体大学を休んで何をやっているんだという感じではあるが、お楽しみいただけただろうか。