パンツは履いておけ。

いろいろはみだしてる人の人生備忘録

夢を見ているか

15歳で人生早々に自殺未遂を図った私は、郊外にある小児病院の心療内科に入院していた。そのとき、とんでもなく大きな夢を持っている女の子に出会ったことは、今でも忘れられないでいる。

 

「私、ハーバード大学に留学するの!将来の夢はモデル!そのために早く病院を出て英語ペラペラになる!」

 

その子、A子はお世辞にも可愛いとは言えない顔立ちで、いわゆる「おかちめんこ」だった。スタイルもかなりふくよかで、背は低い。極めつけには、入院して遅れをとっているため、同学年の勉強範囲すら怪しい。(それは入院している子みんなに言えることであったが)

外の世界と同じく、病棟にもカースト制度は存在していた。「デブスが何言ってんだよ」「お前がハーバードなんて行けるわけねーだろ!」と、 最も派手なグループの子達は、いつも彼女を馬鹿にしていた。

そんなA子は、私を慕ってくれていた。というのも、私だけは真面目に夢の話を聞いてくれたかららしい。真面目に、といっても私自身はそんなつもりはなく、鬱だったので他人から発せられる言葉を咀嚼する余裕がなく、ぼんやりと聞き流していただけだったのだが、自分の夢を否定しなかったのは私が初めてだったから、嬉しかったらしい。あとは、私が彼女より背が高かったから、モデルを目指すA子にとっては憧れだったらしい。

「どうしたら背が高くなる?」と毎日真剣に聞かれたが、私はA子の胸を見て「どうしたらそんなにボインになるんだよ」と返したくてしょうがなかった。

 

◇◇◇

 

時は流れ、その病院から退院して数年後、ちょうど私が大学受験を志した年だった。A子をバカにしていたグループのうちの一人、B美に会うことになった。Facebookで私を見つけたらしく、B美から連絡を取って来た。

新宿駅で待ち合わせて、ファミレスで食事をした。

B美は通信制の高校を卒業後、大学に進学せずフリーター生活を続けていたらしい。彼女は母子家庭であり、母親が病気を抱えてかなり生活がひっ迫しているようだった。

あれからもメンタルはかなり不安定らしく、まだ抗うつ剤から「卒業」できていないと漏らしていた。

「夢なんて持てないよ、こんな社会じゃ」

自嘲気味に言うB美を見て、やっとわかった。

この子は、ずっと、夢を見ているA子に嫉妬してたんだな。

私はその日以来、私はB美には会っていない。

というのも、彼女の辛い生活を耳にして私は自分のことを話さないつもりでいたが、本人から近況報告をしつこく求められたので、エッセイでちょっとした賞を獲って新聞や雑誌に掲載されたこと(大したことはない些細なものだが)、大学に行って出来れば大学院も行って研究者になりたい、だから大学受験をする、という目標を正直に話したら、B美は「すごいね」と言いつつ、笑顔を引きつらせた。

それからしらくB美と連絡を取っていたが、私の近況をしきりに聞いてくる彼女がうざったくなり、口論になって、最終的に喧嘩別れのようにして関係を断った。無論、Facebookもブロックされた。

B美は自分が安心できる「同志」を求めていたのかもしれない。傷を舐め合える仲間を探していたんだと思う。

 

◇◇◇

 

自分で言うのもどうかと思うが、私は他者からの嫉妬を買いやすい人間である。おこがましいことを承知で言ってのけるが、他人より少し地頭がいい自負はあるし、目標に向けて邁進できる気概を十分に持っていることが原因だろう。

あとは何より、自分の夢や目標を周りに宣言するタイプの人間なので、「夢を見ている人に嫉妬をする」タイプの人間にとっては、うざったいことこの上ないだろう。

大学に入ってからもそうだった。他者から見ると私はいささかイレギュラーな存在なようで(高校行ってないし、成人してから大学入ったし、いつも一人でいる癖に、妙にやる気みなぎってるから)、それ故他人から些細なことで揚げ足を取られるし、なぜか張り合ってマウンティング仕掛けてこようとする人もいるし、顔も知らねーような奴から謂れなき讒言を浴びせられることもあった。

年齢も大学に入るまでのバックグラウンドも全く違うのに、キミたちそんな相手につっかかってもどーしようもないだろ、自分と異なる存在を受け入れられないのかね全く、というのが私の本音ではある。しかし、いちいち相手にしていても仕方がないので、「ああはいはい、しょうがないでちゅね、よちよち」と心の中で呟いて、はい、次の人。

そういう人って多分、自分が夢をもてないから、有り余ったエネルギーをどこかにぶつけたくて、分不相応な夢を見ている人を叩きたくなるんだろうな、って。夢を見ている人に嫉妬をしているんだろうな、って。所詮、それぐらいの人間なんだな、って。(ネットで芸能人とか叩いてる人とかもこれと同じメカニズムなんだと思う。)

だから、他者の反応をいちいち気にしてたらキリがない。大体、人の夢を笑うような奴はロクな人間じゃないし、これからもロクな人間にならない。そんな連中が何を言ったって痛くも痒くもないんだから、好きなだけ自分の夢を語ればいいし、周りが引くぐらい夢に向けて鼻息荒く行動すればいい。

A子は今、何をしているだろうか。海外で活躍する、素敵なモデルになっただろうか。私はあなたのこと、今でも時々思い出してるよ。